★ ヴァンパイア・レッスン Lv1 ★
クリエイター神無月まりばな(wwyt8985)
管理番号95-4029 オファー日2008-07-27(日) 00:04
オファーPC ブラックウッド(cyef3714) ムービースター 男 50歳 吸血鬼の長老格
ゲストPC1 ヴィクター・ドラクロア(cxnx6005) ムービースター 男 40歳 吸血鬼
<ノベル>

 お父さまと、同族のかた――北向きの角部屋にお住いのヴィクター・ドラクロアさまとの、晩餐会のお話をお聞きになりたいと仰いますか。
 それは何故ですの? 失礼ですが貴方さまは無骨なほどにすこやかで、仄暗い血の香りと闇が織りなす退廃や恍惚などとは無縁のかたとお見受けしますが?
 はい……? 銀幕ジャーナル特別号の、読者アンケート結果を受けて? 読んでみたい記事耽美部門(ヘタレ要素含む)ナンバーワン……? まあ……。存じ上げなくて申し訳ありません、わたし、そういった世間様の難しいことには疎くて……。
 そうしますと、貴方さまはお仕事でここに……? 銀幕ジャーナルの編集責任者でいらっしゃる? 
 ああ、それでわたしのこともご存じなのですね。わたしが起こしましたあの事件と、そして、お父さまのもとに引き取られた顛末を。
 中途半端な吸血鬼であったわたしは、あの後、『エルダー』でいらっしゃるブラックウッドさまのご厚意をいただき、杵間山麓の銀幕市指定文化財の洋館、『黒木』と表札が出ておりますこのお屋敷で暮らすことになりました。ブラックウッドさまのことは、勿体なくも『お父さま』とお呼びすることをお許しいただいておりますの。
 ええ、こちらでは『娘』として遇してくださっています。仕事めいたことには、とくに携わっておりません。このとおり世間知らずなものですから、少しでも生産的な作業に手を染めたくて、メイドさんのお仕事を覚えたいと申し上げたのですけれど。
「君のしなやかな白い手は、棘を避けながら薔薇を摘み、古き良き蔵書を紐解き、薫り高い紅茶が注がれたティーカップを持ち上げることにこそ、使いたまえ」
 そう、仰ってくださって。申し訳ないくらいに良くしていただいてます。この館を訪ねていらっしゃる皆様が口を揃えて「過保護すぎる」と仰います程に。
 ――ラプンツェル。
 はい、わたしは今でもその名を名乗っております。お父さまもヴィクターさまも、お客さまがたも、そうお呼びになりますので……。ですが名前など取るに足らぬ只の記号。本当はお好きなようにお呼びくださって宜しいんですのよ。
 ――随分、変わった? わたしがですか? 
 落ち着いたように見えますのなら、うれしいのですけれど。
「まずは、形から整えるのがいいかも知れないね。君の輝かしい美貌は申し分ないのだから、それに匹敵する立ち居振る舞いと、言葉遣いを身につけるべきだ――本格的なレッスンに入る前に」
 こちらに身を寄せてのち、お父さまはわたしに、令嬢としての教育を施してくださいました。ですから、わたしの礼儀作法や所作、言い回しなどは、自分では気づかないなりに多少は向上しているのかも知れません。
 お父さまはこうも仰いました。
「豊かな資質を持つ女性は、環境さえ整えば、さして時間もかからぬうちに淑女になれるものなのだよ」 
 と。君が良い例だよ、とも――ですが、どうなのでしょう。わたしは、貴方さまがご存じの『ラプンツェル』から、少しは成長しておりますでしょうか? 

 ――あの?
 どうして先ほどからそんなに、わたしとの距離を取られているのですか?
 いいから、早く取材をさせろ? さっさと終わらせて帰りたい?
 まあ、そんなせっかちな。
 今、お茶を入れますので、ごゆっくり、ね?

  † † †

 晩餐会の内容に触れるまえに、『食事』の対象となるものたちについて、申し上げておきましょう。
 彼らは、以前のわたしがそうであったように、残虐さを露わにした行動しか取れない、この街にとっては招かれざるムービースターです。対策課、といいましたかしら、あの機関から早急にフィルムに戻すよう、厳しい依頼が出ているたぐいの。
 お父さまは、彼らを数人、対策課に『お話』をしてこの館に『保護』し――どのような根回しを行えばそんなことが可能なのか、わたしには想像もつかないのですけれど――彼らの恩人とも主人ともなりました。
(ありがとうございます、ブラックウッド様)
(あなたが望まれることならば、『何でも』『喜んで』従いましょう)
 横暴で狡猾なはずの彼らから、お父さまはそんな言質さえもお取りになられました。それも、決して強制をしたわけではなく、実にさりげなく仕向けたのです。
 そう告げてしまうことは、自らを吸血鬼の餌として供することなのだと、彼らとて薄々はわかっているはず。ですが、世界には彼らに限らず破滅に焦がれるものが多くいて、そういった人々はむしろ争うように吸血鬼の接吻を得ようと片膝を折るのだよと、お父さまは微笑まれます。
 年若い同族を導くに足る長老の資格を得るには、数百年の時を経た程度では足りぬとか。《Philosopher(哲学者)》の称号をお持ちのお父さまは、既に二千年以上生きておられます。たぐいまれな叡智のほどは、わたしごときには伺いしれません。

 ともあれ、彼らは、お父さまが「ここにおいで」と仰ったならば、やってくるのです。
 それが、『食事』の場であろうとも。
 
 ヴィクターさまのことについても、少しお話しておきましょうか。
 ほっそりとした長身で――そうですわね、お父さまが小柄に見えるくらい背の高いかたで、いつも燕尾服とマントをお召しになっていて、それがとてもお似合いです。
 本がお好きらしく、よく書庫でお目にかかります。わたしが古典文学について質問をしますと、たいそう熱心に生き生きと、響きの良い美声で講義してくださいます。教師向きの資質をお持ちなのかも知れませんわね。
 長い黒髪を絹のリボンで結んでおられ、大きな眼鏡の奥の赤い瞳が大層魅力的な――はい? ええ、ヴィクターさまは眼鏡をかけてらっしゃいますが、何か? 
 それは度が入っているのか? そもそも吸血鬼は目が悪くなるものなのか――と?
 さあ……? どうなのでしょう? ヴィクターさまはご自分ではことあるごとに、「私は普通の吸血鬼なのですよ」と仰っておられますが。
 ――私は、流れる水を渡ることができませんし、日光を浴びると灰になりますし、初めて訪れる家には招かれなければ入れませんし、白木の杭を心臓に刺されると死にますし、鏡にも映りませんし八重歯もありますし耳も尖っていますし眠るときはきちんと棺に入りますし。つまりキャラとして影が薄いんです。この燕尾服とマントを意地でも脱がないのはキャラ作りを兼ねた吸血鬼としてのアイデンティティのためなのです。
 ヴィクターさまはそうぼやいてらっしゃいましたが、わたしのようなものからすれば「普通の吸血鬼」であることができるとは、なんて素晴らしいのだろうと思うのですけれど。
 もっとも、実体化直後は、ヴィクターさまもご苦労なさったようです。
 何でも、排水溝に囲まれた場所に棺ごといきなり現れてしまったため、流水を渡れないヴィクターさまは動けないまま途方に暮れるしかなかったそうで。
 とりあえずその場でしばらく粘って、誰かが動かしてくれるのを待っていらっしゃったのに、1日目の夜が明け、目が覚めてみたら1ミリも動かされてないどころか、棺に落書きがなされていて……。激しく落ち込まれたヴィクターさまは、それでも誰かの手が差し伸べられるのを、昼の間は落書きつきの棺に仕方なく閉じこもって時を過ごされたそうな。
 ようやく2日目の夜が来て、棺から出ようとしたところ折しも外は梅雨時の豪雨。苦手な流水がよりによって天から降ってくるありさまは、ヴィクターさまにとって如何ばかりの絶望だったことでしょう。
 諦めてそのまま時を過ごした3日目の夜のこと。起きてみたら場所が変わっており、ようやく救いの手が現れたと喜んで周りを見回したところ、そこはこともあろうに粗大ゴミ置き場。ヴィクターさまはいっそう落ち込まれたとのことですが、側溝結界からの脱出は成功なさったので、結果的には宜しかったのではないでしょうか。
 とはいえ、行き場がないという意味では同様だったようです。この世界とはお墓の様式が違うため、墓地の片隅に住まうことが適わなかったので。
 その後、銀幕市自然公園にて、大地を寝床に星空をカーテンになさっている自由なかたがた――ホームレスと仰るのですか? そういった紳士たちと人情味にあふれた生活を送っていらしたところ、同族の気配を探り当てたお父さまが来訪し、この館にお住いになることになったのです。
 ……はい? いま、何と?
 そういうのを、「ヘタレ」と言うんだ?
 まあ……、そうですの? お父さまはそういった野性味溢れる言葉はお使いにならないものですから、勉強になりますわ……。
 ヴィクターさまは、あまり食事には恵まれず、常に空腹でいらっしゃるとか。
 ですからあの夜、お父さまが、わたしへのレッスンという名目でヴィクターさまを晩餐会にお誘いし、
「食事がてら、簡単なゲームをしようと思うのだよ。ちゃんとルールを決めたうえでね」
 と仰ったのは、お父さまのお優しさなのだと思うのです。
 
  † † †

 晩餐会の会場となったその部屋の壁には「魔女キルケー」を主題とした、ルネサンス期に制作されたとおぼしき絵画が飾られておりました。よく知られた画家の手による名画で、もとは美術館の所蔵品だったのですが、如何なる因縁によるものか、今はお父さま個人の所有となっております。
 美しい女魔法使いキルケーは、伝説の島に建つ壮麗な館で暮らしています。館の周りには、身の毛もよだつような恐ろしい猛獣――猛り狂った狼やライオンなどがうろついています。しかし彼らはみな、本当は獣ではなくて、キルケーの醸した魔酒により姿を変えられてしまった人間の男たちなのです。
 ある日、英雄オデッセウスが部下を引き連れ、海を越えてやってきました。部下たちは、キルケーに魔酒を飲まされ、魔法の杖で打たれて、獣に姿を変えられたのですけれども、オデッセウスだけは、ヘルメスから魔除けの霊草をもらっていたので、魔酒を飲んでも無事だったのだとか。
 構図の中心に描かれているのは、猛獣に囲まれて婉然と笑っている魔女のすがたです。オデッセウスは申し訳程度にごく小さく描写され、柱の影で背を向けております。
 これは何の符丁でしょうか。
 あえてこの絵を晩餐会の場に飾った理由をお伺いしたのですが、お父さまは、考えてみてごらん、これもレッスンだよと、いつもの陶然とするような笑みを浮かべるばかりです。
 実を申しますと、まだ答は出ておりません。平穏な暮らしを愛する人々が、わたしたちのような魔物と酔狂にも関わろうと思うなら、オデッセウスの如き知略を持つべきということなのか、それとも、猛獣になった部下たちのほうがいっそうの悦楽を得、歪みをもつがゆえの幸福に耽溺できるということなのか――わたしは未だに考え続けているのですけれど。

 お父さまがお決めになったルールはこうでした。
 晩餐会の席に呼び出した『彼ら』をひとりずつ、お父さまとヴィクターさまとわたしが、手加減を加えながら順番に咬んでいく。自分の番のときに絶命させてしまったら負け。
 単純なゲームとは云いながら、わたしには大変難しいものに思えました。何しろ、どれだけの『食事』で我慢すればその対象が命を留めたままでいられるのか、経験不足の身には見当もつかないのです。
「さあ、ラプンツェル。君から最初に食事をしたまえ」
「それがいいですね。レディファーストということで」
 最初のターンの順番を決める際、お父さまとヴィクターさまは、わたしに有利なように取りはからってくださいました。このゲームは後になればなるほどに、高度な技術が必要となってくるからと仰って。
 さらにヴィクターさまは、わたしの次の番をお父さまにお譲りになりました。慢性的な飢餓状態にあるヴィクターさまにとって、後に回るということはさぞお辛い決断でしょうに。ご自分が最後とお決めになったあとで、遠い目をなさって「あああ……」と耐えてらっしゃるのもむべなるかな、です。
『彼ら』は並んで床にひざまずき、従順に彼らなりの『順番』を待っております。
 わたしは、一番端にいた、繊細な顔立ちと凶暴な瞳を併せ持つ少年を選び取り、その喉を思い切り咬みました。
 低く呻いて、少年は身を反らします。彼の温かな血がわたしの身体に流れ込み、満たしていきます。わたしはつい我を忘れて夢中になり、唇に力を込めてしまいました。
 ……つまり、度を超して、彼の生命力を奪ってしまったのです。
「……あ」
 思わず無念の声を上げた瞬間、彼はあっけなく、わたしの腕の中でフィルムに戻りました。どこかしらうっとりした表情で。
 ゲームオーバーです。

 次のターンは、お父さま、ヴィクターさま、わたしという順でした。
 お父さまが選んだのは、妖艶な肢体に狡猾な視線が官能的な美女です。まるで最愛の恋人を抱きしめるような優しさで、お父さまは彼女を引き寄せました。その様子はとてもなまめかしく、眺めているだけのわたしですら、思わず頬が熱くなる程でした。彼女の表情も恍惚としており、悦楽を極めているようにしか見えません。
「さて。ヴィクター君の番だね」
 目が虚ろになり、足元がおぼつかなくなり、もうひと咬みすれば生命力が零になるであろう彼女を、お父さまはあくまでも優雅に、ヴィクターさまに渡します。
「……………………あのぅ。……………………これ……」
 ヴィクターさまはとても困惑なさっておられます。それもそのはず、お父さまは技術の限りを尽くして、彼女を生命の糸が切れる一歩手前の状態に留めたのですから。
 どうすればこの難局を逃れるのとができるのか、考え込んでしまったヴィクターさまに、お父さまは笑いながらルールの追加を提案なさいました。
「咬んだふりをしてはいけないよ。必ずひとくち、飲むようにね。それと――咬む場所は、どこでも構わないことにしよう。喉ではなくて、手首などで加減しても良いのだよ」
 ようやくヴィクターさまは安堵なさり、彼女の手首に唇をつけたのですが――
 その瞬間、ゲームオーバーになってしまいました。
 お父さまの卓越した技術はそれほどに、紙一重の均衡を保っていたのです。

 ターンも3回目。順番は一巡し、わたしがもう一度最初からということになりました。
 ちゃんとヴィクターさままで回せるよう、今度は出来る限り生命力の高そうな対象を選ぶことにしました。
 きっちりと美しい筋肉を纏った、鞭のような身体つきの青年です。殺人淫楽症である彼は、その両手で何人もの少女を縊り殺してきたのでした。
 わたしは、最初の少年のときにもう十分満足しておりましたし、お父さまは当然ながら余裕がおありです。したがって、かなり良好な状態でヴィクターさまにお渡しすることができました。
 ここに至るまで、食事らしい食事が得られなかったヴィクターさまは、それは歓喜に満ちたご様子で青年の喉を咬みます。対象は十分な体力を保っており、手加減の必要はないと思われたのでしょう。
 そのご判断は正しゅうございました。むしろ青年の力はあり余っており、生にしがみつく本能を土壇場で目覚めさせました。我が命の危険を感じた彼は、ヴィクターさまの牙を逃れようと激しく抵抗すらしたのです。
「……やめろ。俺はまだ終わりたくない。こんなところで!」
 生来の獰猛さを剥きだしにして、彼は暴れました。

 ――ですが、それは僅かな間のこと。

 なぜなら、すぐにヴィクターさまの邪眼が、彼の四肢を拘束したからです。彼は、蜘蛛の巣に絡め取られた大きな蝶のように動けなくなりました。
「まあ……」
 その鮮やかさに、わたしは思わず感嘆の声を上げました。この先、レッスンを積み重ねたならば、わたしもこのような吸血鬼らしい振る舞いが身に付くのでしょうか。
 そしてヴィクターさまは、じっくり腰を据えられてお食事に取りかかられたのですけれども……。
 あまりにも、空腹でいらっしゃったのでしょう。抑制を利かせることが難しかったとみえて、青年はほどなく、がくりと頭(こうべ)を垂れることとなり――
 このゲームは、ヴィクターさまの負けとなってしまったのでした。
 
  † † †

 最下位となったヴィクターさまは、罰ゲームとして「10分間眼鏡無しの刑」に処せられました。
 あ、はい。
 お父さまに眼鏡を奪われたお姿を拝見した限りでは、やはりヴィクターさまは、その状態では何もお見えになれないのではと思われます。
 何しろ「メガネ返してください……」と取りすがった先というのが、お父さまとは反対方向に横たわっている、ご自分が絶命させたフィルムに戻る直前の青年だったのですもの。

 4ターン目は、ゲームはやめて、ゆっくりと食事を楽しませていただきました。
 ヴィクターさまが不死者となる前のお話など、興味深く拝聴しながら。

「私は、小貴族の三男として生を受けまして。あれは、38くらいの時だったでしょうか。当主である兄に突然、結婚を命じられました。婚約後1年ほど経ってから、ようやく婚約者の女性と顔を合わせたのですが」
 その女性と顔を合わせた瞬間、それまで恋愛下手な人生を送っていらしたヴィクターさまの頭上に天使が舞い降り、ファンファーレが鳴り響き、めくるめく花吹雪が渦巻いたのだそうです。
 ヴィクターさまは、婚約者の女性にひとめぼれをなさったのでした。
 そんな春の到来から、たったの3ヶ月後。
 
 40歳の、誕生日に。

 ヴィクターさまは、無理心中を装って謀殺されました。
 愛する婚約者と、婚約者の恋人によって。

 婚約者が隠していた秘密の恋人は、ヴィクターさまより爵位の高い貴族の子息でした。
 大貴族の圧力により、禁忌である自殺ということにされてしまったヴィクターさまは、きちんとした埋葬すらも赦されませんでした。
「……それでですね、ほぼ野ざらし状態になっておりましたところ、狼が掘り出して、食い散らかしている途中で不死者として覚醒してしまいまして。パニックに陥りながらも、狼を使って何とか眼鏡を探し出すことに成功しました」
 そんな状態で、真っ先に眼鏡を探すのがヴィクターさまらしいと云いましょうか。混乱、葛藤、激情、そういった想いを抱えながら、ヴィクターさまは蝙蝠に姿を変え、飛び立ちました。
 復讐のためです。
 大貴族の屋敷に降り立ったヴィクターさまは、婚約者とその恋人のお楽しみ中にうっかり踏み込んでしまう羽目になり、それは狼狽なさったようですが――復讐は完遂なさいました。
 ええ、その後の冒険譚も息を呑むほどの面白さです。銀幕ジャーナル1冊程度の分量では収まらない長さになりますけど、お話しても宜しいでしょうか?
 またの機会に? まあ、残念ですわ。
 何でも、不死者同士の集まりに於いて、一番盛り上がる話題と申しますのが、こういったご自分の死因談義なのだそうです。
 招待者であるお父さまは聞き役に徹せられ、目を細めて頷いていらっしゃいました。

  † † †

 晩餐会の模様はこんな感じでございましたが、他にお聞きになりたいことがおありでしたら何なりと仰って……あら?
 そんなに青ざめて。どうなさいましたの?
 紅茶に口を付けてらっしゃらないではありませんか。
 どうぞご遠慮なく召し上がって。冷めてしまいますわ。

 ……え?
 紅茶じゃない?
 香水の匂いがする?

 ……まあ。本当。
 わたしとしたことが。少々、間違えてしまいましたわ。
 お父さまにも、よく云われますの。
「君は淑女の振る舞いを身につけてからも、そそっかしいままなのが何とも愛らしいね」
 ……って。
 
 ――Fin.

クリエイターコメントこの度は、耽美あり笑いありな晩餐会+ヴァンパイアとしての修行を兼ねたゲームという、赤黒くも素敵極まりないオファーをいただき、まことにありがとうございました。
どのような語りがふさわしいかしらと考えました結果、プライベートノベルとしては相当に異色な、PCさま以外の人物視点での一人称という形式を取らせていただきました。果たして効果的な表現であったのかどうかは、PLさまのご判断におまかせする次第です。
ブラックウッドさまの長老っぷりと、ヴィクターさまの素敵ヘタレっぷり(ときどきかっちょええ)に乾杯。
ていうか、おとーさま、娘甘やかしすぎっすよ!
公開日時2008-08-29(金) 22:50
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